Column

事件を最後まで一緒に進めるために――私の受任方針について

弁護士に相談をする依頼者の多くは、「紹介だから安心だろう」と考えているかもしれません。
もちろん、ご紹介いただいた案件については真摯に対応しますし、紹介者との信頼関係も大切にしています。

しかし、私は紹介案件だからといって、必ずしも最初から訴訟まで受任することを前提にはしていません。

特に、事実関係が複雑であったり、証拠関係が十分ではなかったり、あるいは法的な見通しが不透明な案件については、まず任意交渉や調査のみを受任することがあります。

これは依頼者を信用していないからではありません。

弁護士が事件を最後まで担当するためには、法的な見通しだけでなく、依頼者との信頼関係も重要だからです。

実際の訴訟は数か月で終わることは少なく、1年、2年、時にはそれ以上の期間に及びます。その間、依頼者と弁護士は何十回、何百回と連絡を取り合うことになります。

そのため、私はまず任意交渉や調査という比較的短期間の業務を通じて、事件の内容だけでなく、依頼者との関係性についても確認しています。

紹介案件であるからこそ、最初から無理な約束をするのではなく、まずはできる範囲から始める。結果として、その方が依頼者にとっても弁護士にとっても良い結果につながると考えています。

最初から全面受任しない――段階的に進める理由

弁護士を探している依頼者は、「どの弁護士に依頼するか」を慎重に検討します。これは当然のことです。

一方で、あまり語られることはありませんが、弁護士もまた「どの依頼者と一緒に事件を進めるか」を見ています。

私は事件を受任する際、法的な論点や証拠関係だけを見ているわけではありません。

・連絡の取り方はどうか
・説明した内容を理解していただけるか
・こちらの助言に耳を傾けていただけるか
・現実的な解決と理想的な解決を区別して考えられるか

こうした点も重要な判断材料になります。

例えば、相手方から十分に有利な提案が出ているにもかかわらず、現実的な理由ではなく感情的な理由だけで全てを拒絶し続ける場合があります。
また、事件の本質とは関係のない細かな点について延々と確認が続くこともあります。

もちろん、不安を抱える依頼者のお気持ちは理解できます。
しかし、訴訟というものは限られた時間と費用の中で進める必要があります。

そのため、私は任意交渉の段階で依頼者とのコミュニケーションを重ねながら、「この方と最後まで協力して進められるか」を見ています。
事件を解決するためには、依頼者と弁護士が同じ方向を向くことが必要だからです。

なぜ任意交渉だけで、契約期間を区切るのか

私の事務所では、見通しが不透明な案件については、任意交渉や調査のみを一定期間受任することがあります。これは事務所の都合だけを考えた制度ではありません。
むしろ、依頼者にとってもメリットがあると考えています。

最初から高額な着手金を支払い、長期間の訴訟契約を締結した後で、「思っていた結果にならなかった」「弁護士との相性が合わなかった」となることは、依頼者にとっても大きな負担です。

一方で、まず任意交渉や調査から始めれば、比較的少ない費用で事件の見通しを確認することができます。また、依頼者も弁護士を見極めることができます。

・弁護士の説明は分かりやすいか
・質問に誠実に答えているか
・事件に真剣に取り組んでいるか

こうした点を実際に確認することができます。そして私自身も、依頼者との信頼関係を確認することができます。

事件は弁護士だけでは解決できません。依頼者の協力があって初めて解決に近づきます。だからこそ、私は最初から長期契約を前提とするのではなく、まず一定期間ご一緒し、その上で訴訟まで進むべきかどうかを判断しています。

紹介案件であっても例外ではありません。依頼者が弁護士を選ぶように、弁護士もまた依頼者との信頼関係を見極める必要があります。
私はそのために、まず任意交渉や調査という形で一定期間ご一緒し、その後に本当に最後まで伴走できる案件なのかを判断しているのであります。

執筆:弁護士 鈴木 孝昭(MIA法律事務所)