かつて産業医の役割は、健康診断結果の確認や職場巡視、長時間労働者への面談などが中心でした。
しかし現在の産業医業務はそれだけではありません。
実際の現場では、「休職が必要か」「復職を認めてよいか」「配置転換は妥当か」「退職勧奨を進めても問題ないか」など、従業員の去就に関わる相談が数多く寄せられます。
これらの問題に対して、医学的な知識だけで十分な助言を行うことは困難です。
例えば、復職可能との診断があったとしても、元の業務に戻すことが適切とは限りません。
また、本人の希望だけで配置を決められるわけでもありません。企業には安全配慮義務(企業が従業員の健康や安全を守るために負う法的義務)があり、一方で事業運営上の必要性も考慮しなければならないからです。
——では、産業医には何が求められるか。
そのため産業医には、労働契約法や労働安全衛生法(職場の安全と健康を守るための法律)、裁判例の考え方などを理解したうえで助言することが求められるようになっています。
もちろん、産業医が弁護士になる必要はありません。しかし、自らの助言が法的問題に発展する可能性を理解し、必要に応じて社労士や弁護士と連携する姿勢は不可欠です。
精神的健康の問題は、医療と法律が交差する分野です。だからこそ、これからの産業医には医学と法律の双方を意識した対応が求められているのです。