Column

医師が退職に追い込まれる“ペイシェントハラスメント”の現実

最近、「患者さんやご家族からの過剰なクレーム」で、医療者が心身をすり減らしてしまう――そんな相談を受けることが増えています。

いわゆるペイシェントハラスメント(患者・家族によるハラスメント)です。

守られるべきは誰か?職場の対応が分かれ道

医師や看護師が患者さんの立場を尊重するのは当然のことです。

しかし、患者さんやご家族から理不尽な言動を受けた際に、職場が医療者を守る姿勢を見せなかった場合、問題はより深刻になります。

 

たとえば、職場が「とりあえずあなたが謝ってください」と言って医療者を矢面に立たせたり、患者さん側に医師の個人情報を安易に伝えてしまったりすることがあります。

こうした対応は、医療者の心に深い傷を残すだけでなく、安全配慮義務違反(労働契約上、使用者が従業員の安全・健康に配慮すべき義務)に該当する可能性があります。

本来、組織として守るべき医療者が、孤立無援のまま放置されてしまう。そんな状況が、さらなる被害を生んでしまうのです。

不眠、動悸、フラッシュバック…深刻化する症状

ペイシェントハラスメントの被害が長期化すると、不眠や動悸、フラッシュバックといったPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症することもあります。

 

真面目に職務を果たしていたにもかかわらず、「自分が悪いのではないか」と責任を背負い込んでしまう方も少なくありません。

その結果、就労を継続できなくなり、退職を余儀なくされるというケースも見られます。

職場に求められる具体的な対応

医療機関でのハラスメント対策は、「加害者=患者さん・ご家族」であっても例外ではありません。組織として適切に介入し、現場の医療者を支える体制が求められます。

  1. 不当なクレームや暴言には、組織として毅然と対応する
  2. 個人情報を安易に開示しない
  3. 心身の不調を訴えた職員には早期のカウンセリング・産業医対応を行う

 

こうした措置が適切に取られていれば、多くの被害は防げたはずです。医療者を守ることは、結果的に医療の質を守り、患者さんの利益にもつながります。

法的視点から見た救済の道

もし、ペイシェントハラスメントで心身に不調をきたし、職場からも適切な対応を受けられなかった場合、医療者は労働審判や損害賠償請求を通じて、精神的損害や退職に至った損害について救済を求めることができます。

これは単なる「人間関係のトラブル」ではなく、職場環境の不備による労務災害として評価されることもあります。

 

医療の現場は、常に緊張と責任を伴うものです。それでも、医療者が安心して働ける環境を整えることは、最終的には患者さんの利益を守ることにもつながります。

ペイシェントハラスメントを「仕方ない」と片づけず、組織として、社会として、真剣に向き合う時期です。

もし今、同じような状況で苦しんでいる方がいらっしゃれば、一人で抱え込まず、専門家に相談することをお勧めします。