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任意交渉の「終わったつもり」が一番怖い──後で困らないための対処法

法律実務の現場では、一度終わったと思われていた任意交渉が、数年後に再燃するという事例が少なくありません。

その背景には、「交渉を法的に終わらせる」という視点が欠けていたことが多くあります。

たとえば、相手方との間で交渉が行き詰まり、実質的にやり取りが停止した場合、そこで終わったという認識になりがちです。

しかし、示談書や確認書などの書面が残されておらず、また、調停や訴訟といった手続で正式に終局処理がなされていない場合には、法律上は争いが未解決のまま継続していることになります。

特に、「こちらに支払い義務がない」と考えている場合には、債務不存在確認訴訟や調停の申し立てを通じて、争点を明確化し、終局的に整理することが重要です。

これを躊躇してしまうと、交渉は中途半端に放置され、相手方の一存でいつでも再燃されるリスクを残すことになります。

実際、数年後に相手方の担当者が変更され、過去の経緯を十分に理解しないまま再び請求がなされる、ということが現実に起こり得ます。

そうなると、既に終わったと考えていた側にとっては、説明や対応のやり直しとなり、精神的・時間的な大きな負担となります。

調停・訴訟は「争うため」ではなく「終わらせるため」の手段

調停や訴訟といった手続を選択することは、何も「対立を深める」ためのものではありません。

むしろ、任意交渉では解決が困難な場合に、冷静かつ明確に問題を整理し、将来の紛争を予防するための有効な手段です。

特に調停は、裁判ほど硬直的ではなく、柔軟な合意形成を目指す場でもあります。

一方、訴訟は最終的な判断を明確に示すものであり、後日の再燃を防ぐ「終わらせるための措置」として有効です。

躊躇すべきでない調停・訴訟という現実的選択肢

重要なのは、「あのとき終わったはず」と感じているだけでは、終わっていないということです。

法律的に明確な形で紛争を終局させておくことで、将来の不必要な混乱を防ぐことができます。

任意交渉に区切りをつける際は、「調停または訴訟」という選択肢を躊躇なく視野に入れるべきです。

それは相手と争うためではなく、関係を明確にし、今後を安心して進めるための、理にかなった対応と言えるでしょう。