Column

医師から弁護士へ――「医療を守る」もう一つのかたち

MIA法律事務所には、医師資格と弁護士資格を併せ持つ弁護士が複数在籍しています。

そのうちの一人は、10年以上にわたる臨床経験を経て弁護士となり、現在も医師免許を有しながら、主に法律の専門家として医療に向き合っています。

なお、執刀を伴う診療は2012年を最後に行っておらず、臨床には立ち戻らず「弁護士として医療を支える」ことに専念しています。

「このままでいいのか」という現場の不安

医師から弁護士を志したきっかけは、医療行為に伴う”法的な不安”でした。研修医時代、患者の命を預かる緊張感の中で、常に脳裏にあったのは、

  • 万一自分のミスで患者が死亡したらどうなるのか
  • 執刀医のミスに巻き込まれた助手として、自分はどう責任を問われるのか といったリアルな恐怖でした。

医療ミスをめぐる訴訟、免許停止や剥奪、開業後の事故――そうしたリスクに明快に応えてくれる弁護士は、当時ほとんどいませんでした。

「ならば自分で弁護士になるしかない」と決意し、28歳から法律の道へ進みました。

医師だからこそ見える視点

医師としての経験があるからこそ、医療者が抱える不安や葛藤には深く共感できます。また、医療と法律の間にあるギャップ――たとえば、

  • 医療が「結果」を重視するのに対し、法は「過程」や「手続」に重きを置く
  • 医師は多忙の中で法的知識を持たず現場に立たされ、訴訟になっても「なぜ自分が責任を問われたのか」がわからない といった現実にも、強い問題意識を持っています。

弁護士として心がけていること

私が弁護士として医療分野に取り組む際、常に意識している基本姿勢は以下の通りです。

  • 医学知識を前提としつつ、未知のことは依頼者から丁寧に教えていただく
  • 医療現場に足を運び、現場の空気や感覚を理解しておく
  • 誠実かつ貪欲に、調査と分析を怠らない
  • 医療用語や医師の思考を理解し、共通言語で対話する
  • スピード感のある対応と、密な連携を大切にする

「二つの資格」以上の価値を目指して

医師であり弁護士であるという専門性は、単なる資格の掛け算ではありません。

医学的事実の理解力、証拠の評価眼、医療現場との信頼関係――これらが一体となることで、医療紛争に対する実務力において大きな強みとなります。

ただし、医療は日々進歩を続けており、過去の臨床経験だけでは通用しない場面もあります。

だからこそ、私は「臨床に戻る」のではなく、「法の専門家として医療に向き合う」姿勢を大切にしています。

医療を守るために、法ができること

医療法務の本質は、単に争いごとの代理ではありません。

  • 医療を訴訟から守ること
  • 医療者が安心して診療に向き合える環境を整えること
  • 患者にとっても信頼できる医療体制を支えること

これこそが、私が医師から弁護士になった最大の理由であり、今の使命だと考えています。