Column

「訴訟リスク」が怖い――でも本当に怖いのは、正しく守ってくれる人がいないこと

「産婦人科は訴訟リスクが高いからやめておこう」

「外科系はミスが命取りになるから避けたい」

こうした声は、医学生や若手医師の中では今もよく耳にします。

確かに、産科や外科は、突発的で重い結果を伴う医療が多く、患者さんや家族の不満や不安が訴訟という形に変わりやすい傾向にあるのも事実です。

でも、ここで一つだけ、皆さんにお伝えしたいことがあります。

それは、「訴訟リスク」と言われているものの多くは、実は「弁護士リスク」なのではないでしょうか。

「訴訟リスク」と言われる医療の現場で、本当に起きていること

医療の現場では、完璧な結果が保証されることはありません。どんなに丁寧に診療しても、残念ながら望ましい結果にならないことはあります。

そんなとき、医師として必要なのは、自分の判断や対応が医学的に適切だったことを、きちんと説明し、第三者にも理解してもらうことです。そのために必要なのが、医療の現場をよく理解し、信頼して相談できる弁護士との連携です。

ところが現実には――

  • 病院が古くから契約している弁護士が医療に詳しくない
  • 医師が自分の弁護士を自由に選べない
  • 弁護士と十分に話す機会も与えられない

こうした状況がまだまだ多くあります。
つまり、「訴訟に巻き込まれてしまう」のではなく、「訴訟にきちんと向き合える環境がない」ことこそが、本当のリスクなのです。

実は、裁判で病院側が勝つことも多い。でも…

意外に思われるかもしれませんが、実は医療訴訟の多くは、病院側が勝訴しています。

なぜなら、医療の過失を証明するには高度な医学的知識や証拠が必要で、それを集めきれないまま訴えが棄却されるケースが少なくないからです。

でも、それで「よかった」で済ませていいのでしょうか。

現場の医師にとっては、「勝ったか負けたか」ではなく、「きちんと自分の診療を理解してもらえたか」「納得してもらえたか」が大切です。それがなければ、たとえ裁判で勝っても、名誉や自信を失い、診療そのものに影響が出てしまいます。

弁護士と連携できていれば、訴訟にすらならなかったかもしれない

実際の現場では、適切な弁護士と早い段階から連携できていれば、訴訟に発展することなく解決できたというケースはたくさんあります。

  • カルテの書き方を少し工夫する
  • 患者さんとの説明内容を記録に残しておく
  • 万が一の時、初動対応を間違えない

これだけでも、無用なトラブルを避けることができます。
つまり、正しく“守ってくれる人”がいるかどうかが、リスクを大きく左右するのです。

自分の希望を、訴訟リスクという「幻」のせいで諦めないでほしい

私が医師として、また弁護士としてお伝えしたいのは、「訴訟リスクを恐れて、自分のやりたい診療科を諦める必要はまったくない」ということです。

大事なのは、いざというときにきちんと連携できる体制があるかどうか、そして、それがあるかどうかに気づけているかどうかです。

一番怖いのは、「自分は大丈夫」と思って、危ない状況に気づかないことです。

訴訟リスクという得体の知れないものを恐れるより、正しく備え、正しい人とつながることが、医師の診療人生を守ってくれるはずです。