医師が刑事事件に関与した場合、もっとも深刻な問題は「有罪判決を受けるか否か」ではなく、「医師免許を喪失するか否か」です。
医師としての社会的地位、信用、そして生活の基盤は、資格の存否に直結するからです。
現場では、「数年の服役よりも、医師免許の維持のほうがよほど重大である」と語る医師も珍しくありません。それほどまでに、医師免許は人生に与える影響が大きいのです。
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医師が刑事事件に関与した場合、もっとも深刻な問題は「有罪判決を受けるか否か」ではなく、「医師免許を喪失するか否か」です。
医師としての社会的地位、信用、そして生活の基盤は、資格の存否に直結するからです。
現場では、「数年の服役よりも、医師免許の維持のほうがよほど重大である」と語る医師も珍しくありません。それほどまでに、医師免許は人生に与える影響が大きいのです。
医師に対する行政処分は、医師法第7条に基づき行われます。処分権者は厚生労働大臣とされていますが(同条1項)、同条3項により「医道審議会の意見を聴かなければならない」とされており、実務上は医道審議会が処分の要否・内容を決定しているのが実態です。
行政処分における事実認定は、原則として刑事手続の判決確定後に着手されます。刑事手続と行政手続が別個の手続であることは建前ですが、実際には確定判決を基礎に、ほぼ機械的に行政処分が決定されていきます。
刑事事件における医師の命運を分ける最大の分水嶺は、「不起訴処分で終結できるかどうか」にあります。
不起訴であれば、行政処分に至らず、あるいは軽微な戒告処分にとどまる可能性が高くなります。
反対に起訴され、有罪が確定すれば、医業停止1~3年あるいは免許取消という厳しい処分が現実味を帯びてきます。
たとえば、覚せい剤取締法違反(単純使用)のような事案では、医業停止2年前後の処分が下されることが多くあります。
2年もの間、医業を停止されれば、実質的には廃業と同義です。
行政処分に先立って、「意見提出の機会(弁明)」が形式的に設けられますが、実際には一方的に短期間の提出期限を指定されることが大半です。
刑事手続が確定してから準備を始めても、到底間に合いません。
そのため、刑事事件の段階から、医道審議会対応を見越して資料収集・主張整理・医業継続への影響分析等を開始しておくことが不可欠です。
行政処分の内容によって、医師の今後の人生設計は大きく左右されます。
なお、たとえ保険医登録が認められなくなった場合でも、自由診療によって医業を継続している医師も一定数存在します。この意味でも、医師免許の維持自体が最優先の課題となります。
医師の刑事事件は、通常の刑事弁護とは異なる視点が必要である。
刑事罰を最小限に抑えることだけでは不十分であり、行政処分を見越した弁護活動・本人対応が欠かせない。