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私人による「現行犯逮捕」の要件とは ― やっていい場合・やってはいけない場合 ―

「私人逮捕」という言葉が話題になることがありますが、誰でも自由に人を捕まえてよい制度ではありません。

実際には、要件を一つでも外すと、逮捕した側が刑事責任を問われる危険な行為でもあります。

本稿では、刑事訴訟法に基づき、私人が行える「現行犯逮捕」の要件を整理します。

私人逮捕が許されるのは「現行犯」のみ

(刑事訴訟法213条・212条)

私人に逮捕権が認められるのは、現行犯(および準現行犯)に限られます。

現行犯とは

  • まさに犯罪行為の最中
  • 犯行を終えた直後で、時間的・場所的連続性がある場合

いわゆる「後から防犯カメラで分かった」「あとで話を聞いて犯人だと知った」というケースは、現行犯には当たりません。

要件① 現行犯性(最重要)

次のような事情が必要です。

  • 犯行中または犯行直後であること
  • 犯人性が外形的に明らかであること
  • 逃走中
  • 盗品・凶器の所持
  • 被害者による直後の指摘 など

「怪しい」「おかしいと思った」だけでは足りません。

要件② 逮捕の必要性

条文上は明記されていませんが、実務では違法性阻却の判断要素として重視されます。

必要性が認められやすい例

  • 逃走のおそれがある
  • 証拠を隠滅しそう
  • 周囲に危険が及ぶ可能性がある

必要性が否定されやすい例

  • 素直に名乗っている
  • 警察がすぐ来られる
  • 明らかに逃げる状況にない

要件③ 方法の相当性(必要最小限)

私人が使える実力行使は、逃走・危険防止のために必要最小限に限られます。

許容される範囲

  • 腕を掴む
  • 押さえ込む
  • その場に留める

違法になりやすい行為

  • 殴る・蹴る
  • 長時間拘束
  • 別室や車に連れ込む
  • 土下座・謝罪の強要
  • 動画撮影やSNS投稿

これらは逮捕監禁罪・暴行罪等に転化する危険があります。

要件④ 直ちに警察へ引き渡す義務

(刑事訴訟法213条後段)

私人が現行犯逮捕をした場合、直ちに検察官または司法警察員に引き渡さなければなりません。

  • 自分で取り調べをしない
  • 説教や示談交渉をしない
  • 長時間拘束しない

この「引渡し遅延」が原因で、正当だったはずの逮捕が違法になる例は少なくありません。

迷ったら110番通報が最も安全

私人による現行犯逮捕が適法となるためには、

  • 現行犯性
  • 逮捕の必要性
  • 方法の相当性
  • 即時の警察引渡し

すべてを満たす必要があります。

私人逮捕は「やってもいい制度」ではなく、やむを得ない緊急対応としてのみ許される例外です。

迷った場合は、距離を保って110番通報。

これが最も安全な対応です。