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議長について ――医療法人社員総会における公正な運営の鍵

医療法人の社員総会は、法人の意思決定の中核を担う重要な場です。

その総会を円滑かつ公正に進行させるうえで、最も重要な役割を担うのが議長です。

議長は単なる司会者ではなく、法的にも一定の権限と責任を負う立場にあります。

しかし実務では、その位置づけや判断の範囲が誤解されることが少なくありません。

議長の法的位置づけ

医療法人法には議長に関する明文規定は多くありませんが、医療法人法第46条の3第6項により、一般社団法人法の規定が準用されます。

したがって、議長の地位や権限は一般社団法人法および定款の定めに従うことになります。

多くの定款では、議長は「社員総会において、出席社員の互選により選任する」と定められています。

これは、総会が構成員の自治に基づく合議体であることを反映した規定です。

一方、理事長が当然に議長となる旨を定める定款もあり、法人ごとに運用が異なります。

議長の役割と権限

議長の基本的な役割は、社員総会を適正に運営することにあります。

単なる司会ではなく、秩序維持権と議事運営権を持ち、議事の成立・決議の適法性を確保する責任を負います。

主な権限は次のとおりです。

  1. 開会・閉会の宣言
  2. 議題の確認と進行の管理
  3. 発言者の指名および発言時間の調整
  4. 動議の可否の判断
  5. 採決方法の決定
  6. 特別利害関係人の排除等、議決権の適正確認

このうち最後の項目――特別利害関係人の排除――は、近年の医療法人内部紛争で最も重要なテーマのひとつです。

議長が利害関係を的確に認定し、議決から除外することで、後日の無効主張を防ぐことができます。

議長が中立性を保つために

議長は進行の最終責任者であると同時に、総会の中立性を象徴する立場です。

議事を自らの派閥や立場に有利に進めることは、法的に認められません。

特に次のような行為は避けるべきです。

  • 発言の遮断や一方的な討論打ち切り
  • 採決順序の恣意的な変更
  • 反対意見の記録抹消
  • 自らが利害関係人である議案を主導的に採決すること

議長がこれらの行為を行うと、総会の公正性が損なわれ、決議の無効原因となるおそれがあります。

議長は自らも社員である場合が多いものの、議事進行においては中立性を「演じる」責任を負うと理解すべきです。

議長選出が紛糾した場合の対応

社員間の対立が深い場合、最初の段階である「議長選出」自体が紛糾することがあります。

このようなときは、次のような段階的対応が考えられます。

  1. 定款に「理事長が議長となる」との明文があれば、その規定に従う。
  2. 明文がない場合は、出席社員の互選により選任する。
  3. 互選が成立しないときは、暫定的に理事長または年長社員が「仮議長」として手続を整える。

「仮議長」制度は法律上の明文はないものの、実務では混乱防止のため広く用いられています。

議長選出ができないまま議事に入ると、その後の決議全体が無効と判断されるリスクがあるため、仮でも議長を定めて進行することが重要です。

議長の判断を議事録に残す重要性

議長が利害関係人を排除したり、動議を却下したりした場合には、その理由と経過を議事録に明記することが不可欠です。

たとえば次のように記録します。

「議長は、本議案に関し、特別の利害関係を有する社員を議決から除外した。理由および当該社員の氏名は別紙一覧のとおりである。」

この一文を残すか否かで、後日の裁判・行政監督での評価が大きく異なります。

議長は判断の正当性だけでなく、手続の可視化によって公正性を担保することが求められます。

適切な権限行使が、ガバナンスの土台となる

医療法人の社員総会における議長は、単なる進行役ではなく、手続の公正と秩序を維持する法的責任者です。

議長の判断ひとつで、総会の有効性や理事長の地位が左右されることもあります。

議長に求められるのは、法律と定款に基づく冷静な進行、中立的な姿勢、そして判断理由を残す記録性です。

適切に権限を行使した議長の存在こそが、医療法人の信頼とガバナンスを支える土台になります。