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医療法人の売却を成功させるために:株式売却との違いと適切な対策

医療法人を売却したら分離課税になるのでしょうか?

医療法人の承継や売却を検討する際、多くの方が気にされるのが「税金」です。特に、「株式会社の株式売却と同じように、20%程度の分離課税で済むのか?」という質問をよくいただきます。結論から言えば、医療法人の売却益は分離課税にはならず、総合課税の対象となります。

最高55%の税率も?医療法人と株式会社の決定的な違い

株式会社の場合、株式を売却すると「譲渡所得」として分離課税(20.315%)が適用されます。これが、事業承継の一手法として広く活用される理由です。

一方、医療法人は株式会社と異なり株式制度を採っていません。出資持分のある法人であっても、その譲渡は「譲渡所得」ではなく、事業所得や雑所得として総合課税に含まれる扱いになります。つまり、他の所得と合算されるため、最高55%まで税率が上がる可能性があります。

持分なし法人特有の税務上の注意点

持分なし医療法人では、そもそも個人に「売却益」が帰属しません。譲渡代金の形で資金移動をすれば、贈与税や一時所得課税といった別のリスクが生じます。

そのため、単純に「法人を売却して現金化する」という発想は難しく、課税上の工夫が必須となります。

専門家が実践する承継手法:退職金と事業譲渡を組み合わせた節税戦略

では、医療法人を承継する際にどのように対応しているのでしょうか。代表的なのは次のような手法です。

  • 退職金の活用  役員退職金として法人から個人へ支払うことで、退職所得控除や1/2課税が適用され、税負担を大幅に軽減できます。
  • 事業譲渡スキーム  医療法人が新法人に事業を譲渡し、対価を法人に残す形をとることで、法人税ベースで処理します。

いずれにせよ、専門家によるスキーム設計が不可欠です。単純に「株式売却と同じ」と考えると、思わぬ税負担に直面することになります。

税理士・弁護士との連携で実現する最適な承継戦略

  1. 医療法人の売却益は分離課税にはならず総合課税
  2. 株式譲渡のような低税率は期待できない
  3. 実務上は退職金や事業譲渡を組み合わせて課税をコントロールするのが一般的

医療法人の承継は、税務・法務の両面で慎重な設計が求められます。安易に「売却して現金化」と考えるのではなく、税理士・弁護士と連携しながら最適な方法を選択することが重要です。