医療訴訟では、患者側の感情も大きな要素です。
患者本人や遺族は、悪い結果が生じた理由を知りたいと考えています。
説明が不十分だったのではないか。
何か見落としがあったのではないか。
もっと早く対応していれば助かったのではないか。
他の治療を選択していれば違う結果になったのではないか。
このような疑問を抱えています。
医療機関側が十分な説明をしないまま、形式的な回答に終始すると、患者側の不信感は強まります。
その不信感が、調停や訴訟につながります。
そして訴訟になった後も、医師側が形式的な否認を続ければ、患者側はさらに納得できなくなります。
もちろん、患者側の疑問が医学的に正しいとは限りません。
患者側の主張が、結果から逆算したものであることもあります。
医療行為の不確実性を十分に理解していないこともあります。
しかし、患者側が何に納得していないのかを把握しないまま、単に法的責任を否定するだけでは、紛争は解決しにくくなります。
一方で、医師側にも感情があります。
医師は、自分の診療について責任を問われることに強い抵抗を感じます。
日々、患者のために診療しているにもかかわらず、結果が悪かったというだけで責められる。
医学的には不可避だったにもかかわらず、過失があるかのように主張される。
診療録の一部を切り取って批判される。
このような状況に置かれれば、医師が強い不満を持つのは当然です。
そのため、医師側も感情的に「絶対に認められない」と考えることがあります。
この感情自体は理解できます。
しかし、訴訟対応においては、感情と法的見通しを分けて考える必要があります。
医師が納得できないことと、裁判で勝てることは同じではありません。
医学的には言い分があることと、裁判所に認められることも同じではありません。
だからこそ、弁護士が冷静に整理する必要があります。次のような役割が求められます。
- 医師側の感情を受け止めつつ、証拠に基づいて見通しを示す
- 争うべき点と、争っても意味がない点を切り分ける
- 責任が認められる可能性が高い場合には、早期解決を提案する
- 責任がない場合には、医学的根拠に基づいて毅然と争う
この役割を果たせる弁護士がいなければ、医療訴訟は長引きます。