Column

産業医の役割は「医療」から「法的リスク管理」へ

産業医の役割は、ここ数年で大きく変わっています。かつては、有害業務への対応や健康診断といった「医学的管理」が中心でした。しかし現在、とりわけ第3次産業においては、その本質は明らかに変わっています。今の産業医は、単なる医師ではなく、企業の法的リスクをコントロールする役割を担っています。

実際、現場で問題となるのは次のようなテーマです。

  1. ハラスメント
  2. 長時間労働
  3. メンタルヘルス不調

これらはいずれも、単なる健康問題ではなく、企業の「安全配慮義務」や「コンプライアンス」に直結する問題です。

弁護士×医師の視点で見えるもの

私は弁護士であり医師でもありますが、この2つの視点を持つことで、見え方が大きく変わります。

医師としては、「この人は本当にどの程度しんどいのか」「就労可能か」を見ます。

一方で弁護士としては、「この対応は後に訴訟でどう評価されるか」「企業の責任が問われるラインはどこか」という視点で見ています。

多様な労働者への対応において重要なのは、個別の配慮だけではありません。その対応が、組織全体として合理的かつ説明可能かどうか——ここが最も重要です。

産業医の価値は"スピード"で決まる

実務をやっていて強く感じるのは、産業医の価値は「面談の質」だけではないということです。むしろ本質は、どれだけ早く対応できるかにあります。

メンタルヘルスやハラスメントの事案は、初動が遅れるだけで一気に悪化します。

  • 症状が悪化する
  • 会社への不信感が強まる
  • 紛争化する

そして結果として、訴訟リスクが一気に高まります。

逆に言えば、適切な初動ができれば、多くの問題は紛争化せずに収まります。

「話を聞く医師」では足りない

産業医の役割は、単に話を聞くことではありません。

以下のような点まで踏み込んで判断できて初めて、企業にとって意味のある存在になります。

  • 企業としてどう判断すべきか
  • どこまで配慮すべきか
  • どこからリスクになるのか

産業医への投資で企業格差が広がる

最近感じるのは、企業によって産業医の使い方に大きな差が出てきていることです。

  • 形式的に置いているだけの企業
  • リスク管理の中核として活用している企業

この差は、そのまま紛争リスクと経営の安定性の差として現れてきます。産業医はコストではなく、適切に機能すればリスクを大きく下げる「投資」です。

これからの産業医に求められるもの

これからの産業医に求められるのは、次のすべてです。

  • 医学的判断
  • 法的リスク感覚
  • 迅速な対応力
  • 組織全体を見る視点

産業医の役割は、確実に次のステージに進んでいます。単なる医療職ではなく、企業経営を支える専門職としての位置付けが、今後ますます重要になると考えています。