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労働衛生コンサルタントなら「できること」「できないこと」 ―― 産業医・弁護士との違いを整理する ――

労働衛生コンサルタントは、企業の安全衛生体制を専門的・構造的に支援できる国家資格です。

一方で、現場では以下のような問題が起こりやすく、非弁・越境リスクが問題になることもあります。

  • 産業医との役割の混同
  • 社労士・弁護士領域への踏み込み

本記事では、労働衛生コンサルタントだからこそ「できること」を軸に、安全な業務範囲を整理します。

労働衛生コンサルタントの基本的な立ち位置

労働衛生コンサルタントは、労働安全衛生法を中心とした技術的・専門的・制度運用上の助言を行う立場です。

ポイントは、次の2点です。

  • 「法令の解釈者・紛争解決者」ではない
  • 「制度・体制・リスクの専門家」である

労働衛生コンサルタントが「できること」

1.労働安全衛生法令に基づく体制整備の助言

具体例

    • 衛生委員会の設計・運営方法の助言
    • 安全衛生管理体制(総括安全衛生管理者等)の整理
    • 法令で求められる体制が「現場で機能しているか」の評価

OKな理由

これは「法令を前提にした制度運用・技術的助言」であり、権利義務の判断や紛争解決ではありません。

 

2.職場環境・作業環境のリスクアセスメント

具体例

    • 有害因子(化学物質・騒音・振動等)の評価
    • 長時間労働・交代勤務による健康リスクの分析
    • メンタルヘルス不調が生じやすい職場構造の指摘

OKな理由

医学的・工学的・衛生学的観点からのリスクの可視化・評価は、コンサルタントの中核業務です。

 

3.法令違反「リスク」の指摘(※結論は出さない)

具体例

    • 「この運用は、安衛法上リスクが高いと考えられます」
    • 「行政指導の対象になり得る運用です」
    • 「改善勧告を受ける可能性があるポイントです」

重要な線引き

    • 「違法です」「アウトです」と断定しない
    • 「リスクが高い」「見直しが望ましい」と表現する

リスクの指摘まではOK、違法性の断定・責任判断はNGです。

 

4.是正措置・改善策の技術的提案

具体例

    • 作業工程・動線の見直し
    • 面談・フォロー体制の構築提案
    • 衛生教育・研修プログラムの設計

OKな理由

これは「どう直すか」という技術的・運用的提案であり、法的紛争の解決ではありません。

 

5.産業医・社内担当者への専門的サポート

具体例

    • 産業医への情報整理・助言
    • 人事・総務向けの制度理解支援
    • 医師・非医師間の専門翻訳(医学⇔制度)

強み

労働衛生コンサルタントは産業医と企業をつなぐハブとして機能できます。

 

非弁リスクを避けるための言葉の選び方

以下は、明確に避けるべき領域です。

  • 懲戒・解雇・休職の適法性判断
  • 労使紛争における「どちらが正しいか」の判断
  • 従業員への権利行使の助言
  • 訴訟・損害賠償・違法性の断定

これらは弁護士の専権領域です。

安全な実務フレーズの例

危険な表現

  • 「この対応は違法です」
  • 「訴えられたら負けます」

安全な表現

  • 「法令上、リスクが高い運用です」
  • 「専門家(弁護士)による確認が望まれます」

結論を出さず、材料を出す――これが最大の防御策です。

医学・制度・法律、それぞれの専門家の役割

  • 医学的判断:産業医
  • 制度・体制・リスク評価:労働衛生コンサルタント
  • 法的判断・紛争対応:弁護士

この分業ができている現場ほど、企業の安全衛生レベルは高く、トラブルも少なくなります。

「判断する」のではなく「設計する」専門家として

労働衛生コンサルタントの価値は、法律を「判断する」ことではなく、法律を前提に現場を「設計・改善」することにあります。

線を守ることは、企業のためであり、専門職自身を守ることでもあります。