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産業医がやりがちな「非弁行為」 ―― 善意がリスクに変わる境界線 ――

産業医は、企業と労働者の双方に関わりながら、健康管理・就労判断・安全配慮に重要な役割を果たします。 一方で、実務の現場では「つい踏み込みすぎてしまう」ことによる非弁行為リスクが潜んでいます。

多くの場合、悪意はありません。 「会社のために」「従業員のために」という善意が動機です。 しかし、線を越えた場合、責任は産業医個人に帰属します。

本記事では、産業医が実務で「やりがち」な非弁行為を整理し、安全な線引きの考え方をまとめます。

産業医がやりがちな非弁行為5つ

1.懲戒・解雇の適法性を判断してしまう

よくある発言

    • 「このケースなら懲戒解雇でも大丈夫だと思います」
    • 「普通解雇なら問題ないでしょう」
    • 「裁判になっても会社が勝つと思います」

問題点

懲戒・解雇の有効性判断は、労働契約法・就業規則・判例を踏まえた純粋な法的評価です。 医学的見解を超えて「結論」を示した時点で、弁護士業務に該当する可能性が高くなります。

安全な整理

    • 就労可能性、業務遂行能力、配慮事項など医学的評価に限定
    • 法的判断は「弁護士の確認が必要」と明示する

2.休職・復職トラブルで法的助言をしてしまう

よくある発言

    • 「この診断書なら復職拒否は違法になりそうです」
    • 「休職期間満了退職は難しいですね」
    • 「会社の対応は法的に問題がありそうです」

問題点

休職・復職は、就業規則の解釈や労働契約終了の可否という法的効果そのものに直結します。 「医学的にどうか」ではなく「法的にどうか」を語ると非弁リスクが生じます。

 

3.従業員本人に権利行使を示唆してしまう

よくある発言

    • 「それはパワハラなので請求できます」
    • 「損害賠償を考えた方がいいかもしれません」
    • 「労基署に行った方がいいですよ」

問題点

これは紛争解決を前提とした権利助言であり、従業員側の代理的立場に立つ行為です。 産業医の中立性を損ない、非弁性が極めて高い行為と評価されます。

 

4.会社の法的リスク評価を単独で行う

よくある発言

    • 「訴訟リスクは低いと思います」
    • 「損害賠償まではいかないでしょう」
    • 「安全配慮義務違反にはならないと思います」

問題点

「リスクがある/ない」という表現自体が、法的評価と予測を含みます。 特に「違法」「賠償」「訴訟」という言葉を用いた時点で、弁護士業務と評価される可能性が高まります。

 

5.会社と従業員の調整・仲裁をしてしまう

よくある行動

    • 双方の主張を整理して落としどころを提案
    • 会社の意向を従業員に伝えて説得
    • 実質的な仲裁役として動く

問題点

当事者間の利害調整や紛争収束を目的とする行為は、典型的な「法律事務」です。 中立性の喪失だけでなく、責任の所在が曖昧になり、産業医自身を危険にさらします。

産業医が守るべき実務上のルール

実務では、次のような基準が有効です。

OK:医学的評価、事実整理、健康・安全上のリスク指摘

NG:法的結論、権利義務判断、相手方対応の指示

言い換えると、

「判断材料は出すが、判断はしない」

この一線を守るだけで、非弁リスクは大きく下がります。

弁護士連携は専門性を完成させる行為

産業医が弁護士と連携することは、責任回避ではなく専門性を正しく使い切る行為です。

  • 医学の判断は産業医
  • 法律の判断は弁護士

この役割分担ができている現場ほど、結果的にトラブルは少なく、産業医自身も守られます。

産業医の価値は「医学的専門性」にある

産業医の価値は、「法律の代わりをすること」ではなく、医学的専門性を的確に提供することにあります。

線を守ることは、企業のためでもあり、従業員のためでもあり、そして何より産業医自身を守る行為です。