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可否同数と議長の権限──特別決議の壁をどう越えるか

医療法人や一般社団法人では、社員総会で議案を決める際に「可否同数の場合は議長が決する」と定めている定款が多く見られます。

この一文は一見すると便利そうですが、実はどんな場面でも使えるわけではありません。

なぜ特別決議では通用しないのか

たとえば、理事の選任や通常の承認事項など、過半数で足りる普通決議では、賛否が同数のときに議長が最終判断を下して構いません。いわば議事を円滑に進めるためのルールです。

しかし、除名・定款変更などの特別決議(3分の2以上などの特定多数を要する決議)では事情が異なります。

この場合は「賛成が一定割合に達したか」が法律上の要件となるため、議長裁決によって賛成数を”上乗せ”することはできません。

したがって、可否同数であれば、要件を満たさない以上「否決」と整理するのが正解です。

準備と構造設計が安定の鍵

では、可決させたい重要議案があるときはどうするか。

実務上は、手続面での戦略的工夫が求められます。具体的には次のような方法があります。

  • 利害関係人を議決から除外して分母を減らす
  • 欠席者には書面表決や委任状を確実に集める
  • 定足数に満たない場合は続会扱いにする

 

結局のところ、「議長裁決」は便利なようでいて、使える場面は限定的です。

大切なのは、可否を決める前に、どう構成を整えるか。

組織運営では、議決の数よりもその準備と構造設計こそが、安定の鍵を握っています。