Column

医療法人の「決議」をめぐる現場感 ― 多数決の裏にあるもの ―

医療法人のご相談を受けていると、しばしば「社員総会で決議したから有効ですよね?」という質問を受けます。

しかし、実際のところ「決議」という言葉ほど、誤解が多い概念もありません。

医療法人における「決議」は、単なる”多数決”ではありません。

出席者の過半数で決まるように見えても、その裏には定款の規定・議題通知の方法・利害関係人の除斥・定足数の充足など、いくつもの前提条件があります。

一つでも欠けると、その決議は「存在しなかった」ものと扱われることさえあります。

「可決した」が覆される理由

たとえば、理事長解任や社員除名といった重要議題では、「可否同数の場合の議長裁決」や「本人を定足数に算入できるか」といった点が争点になります。

形式上は可決していても、手続が不備であれば後から無効確認訴訟や仮処分に発展するケースも珍しくありません。

医療法人の内紛の多くは、実は”内容の是非”ではなく”手続の不備”から生じています。

多数派が正義とは限らない

むしろ、横領や背任の疑いを持つ者が多数を形成してしまうと、組織の倫理は容易にねじ曲がります。

そのときこそ、「クリーンハンズの原則」や「信義則」という法の根底にある考え方が問われます。

医療法人は、医業という公共性の高い活動を行う法人です。

したがって、決議の有効性は単なる社内政治の問題ではなく、社会的責任や患者への信頼にも関わります。

形式と実質の両面から、正しい意思決定を支えること。

それが、私たちが医療法人案件に携わる際に最も重視している点です。