医療現場では、患者さんの容体が急に悪化したとき、医師は「このまま自分の病院で治療を続けるか」「より高度な医療設備が整っている病院へ転送するか」を瞬時に判断しなければなりません。
この判断ひとつで、救命の可能性が大きく変わることも少なくありません。
ところが、実際には、転送の判断を誤った結果、救えるはずの命が失われるケースもあります。
それにもかかわらず、法的には「転送義務違反がなかった」とされてしまうことがあるのです。
Column
医療現場では、患者さんの容体が急に悪化したとき、医師は「このまま自分の病院で治療を続けるか」「より高度な医療設備が整っている病院へ転送するか」を瞬時に判断しなければなりません。
この判断ひとつで、救命の可能性が大きく変わることも少なくありません。
ところが、実際には、転送の判断を誤った結果、救えるはずの命が失われるケースもあります。
それにもかかわらず、法的には「転送義務違反がなかった」とされてしまうことがあるのです。
この背景には、生命の危機に直面した際の医師の義務を軽く見てしまう傾向や、診療記録や証言などの証拠評価を誤ること、さらにはインフォームド・コンセント(医師が患者さんに治療内容を説明し、同意を得ること)の法理を誤って理解してしまうことが関係しています。
本来、命の危険が迫っているときには、医師は患者さんの同意の有無にかかわらず、救命のための最善の措置――すなわち、必要な医療機関への速やかな転送――を行う責務があります。
同意が得られないことを理由に転送をためらうことは、医師としての基本的な義務を放棄するに等しいものです。
命を守るための最も根本的な判断が問われる「転送の義務」。
その重要性が、もっと正しく理解される社会であってほしいと思います。