Column

職種別に見る”見えにくいリスク”と現場から拾うべき声

──営業・店長・エンジニア・その他スタッフの視点から

企業の労務管理やメンタルヘルス対応を考えるとき、ストレスチェックや勤怠実績といった「数値化された情報」に頼りがちです。しかし、実際の不調や職場のひずみは、もっと「見えにくいところ」に潜んでいます。とくに、職種ごとの特性を踏まえた視点でのヒアリングや対応が欠かせません。

営業職:顧客第一主義の裏側にある"沈黙のストレス"

営業担当者は、成果を出すことが前提とされ、表向きには元気に立ち回ることが求められます。しかしその裏で、クレーム対応・数字プレッシャー・顧客との心理的距離感に悩むケースは少なくありません。

 

<現場の声に出にくいSOS>

  • ノルマが重いが「弱音を吐けない」空気がある
  • クレーム対応で精神的に疲弊している
  • 営業戦略が場当たり的で振り回されている感覚がある

<取るべき対策>

  • ノルマの妥当性を本社側で再確認する体制
  • 営業担当者向け「心理的セルフケア研修」の導入
  • 顧客対応でのトラブル事例共有・エスカレーションルートの明確化

店長職:現場の"調整弁"に押しつぶされないために

店舗の責任者である店長は、売上・人員・顧客・本社との間に立つ多重責任者です。「孤独な管理職」として、精神的に追い込まれるケースも少なくありません。

<店長の立場で困っていること>

  • シフト調整が困難で休みを取りにくい
  • 問題社員への対応が曖昧で、責任を押しつけられている
  • 本社との意思疎通が不十分で独り相撲になっている感覚がある

<取るべき対策>

  • 店長向けの労務相談・産業医相談窓口の明示
  • 月1回の店長ヒアリング制度
  • 店舗支援部門による定期店舗レビューの実施

エンジニア職:黙々と働く"静かな過労"に光を当てる

エンジニアは自発的に課題に向き合う一方、納期・障害対応・技術的孤立といったストレスを抱えやすい職種です。表面的には「働けている」ように見えても、深刻な疲弊が進行していることもあります。

<注目すべきポイント>

  • 長時間労働が常態化していないか
  • 技術的な相談相手を持っているか
  • チームで仕事を進められているか(個人依存の回避)

<取るべき対策>

  • 工数・稼働時間の定期的な見直し
  • 技術共有会・勉強会などの横のつながりの場の確保
  • 緊急対応業務のシフト化・負担分散体制の導入

その他スタッフ:黙っている=問題がない、ではない

接客・調理・清掃・事務など、いわゆる”その他スタッフ”とされる職種の中にも、職場環境への不満や精神的負担を抱える方はいます。特にパート・アルバイトなど非正規層では、意見を出しにくい空気や立場の弱さが背景にあります。

<拾うべき声>

  • 担当業務の割り振りが偏っている
  • 店長との人間関係に悩んでいるが言い出せない
  • 繁忙期に無理なシフトを押し付けられている

<取るべき対策>

  • 匿名意見箱や定期アンケートの導入
  • 職種ごとのハラスメントリスク確認表の整備
  • 「困ったときの相談先」マップの配布

組織の"気づく力"が企業の健全性を決める

メンタル不調や業務上のストレスは、決して「本人の問題」だけではありません。組織として”気づく力”を持ち、”拾い上げる仕組み”を持っているかどうかが、企業の健全性を大きく左右します。

職種ごとの業務特性とリスクを正しく理解し、現場の声を制度設計や運用に反映していくことが、真の安全衛生管理の第一歩です。