医療法人制度は、時代とともに変化を重ねてきました。その中でも、もっとも大きな転換点の一つが「持分の定めのない医療法人」への移行です。
これは、医療を営利目的から切り離し、社会的資産として継続的に医療を提供するという理念を体現する制度といえます。
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医療法人制度は、時代とともに変化を重ねてきました。その中でも、もっとも大きな転換点の一つが「持分の定めのない医療法人」への移行です。
これは、医療を営利目的から切り離し、社会的資産として継続的に医療を提供するという理念を体現する制度といえます。
医療法人における「持分」とは、いわば出資に対応する権利であり、法人の財産に対して一定の払い戻し請求権を有するものです。
創設当初は、家族経営の小規模診療所を法人化する手段として有効でしたが、時を経て「医療法人の私物化」「相続時の巨額贈与税」など、制度上の矛盾が表面化していきました。
持分なし法人へ移行するためには、持分を有する全ての社員がその「財産権を放棄」する必要があります。
そのため、法的には一人でも不同意があれば移行は成立しません。
ここに、この制度の最大のハードルが存在します。
形式的には同意書一枚の話ですが、その裏には「先代からの承継」「家族間の信頼」「法人理念の共有」など、目に見えない要素が密接に関係しています。
単に税務上有利だからといって持分を放棄するのでは、社員の納得は得られません。
重要なのは、「この法人が誰のものなのか」「何を守り、何を残したいのか」という価値観を明確に言語化し、社員間で共有することです。
理念が共有できれば、持分の有無を超えて、法人の永続性を第一に考える合意が形成されやすくなります。
全員一致が難しい場合には、持分の買い取りや贈与、さらには新法人設立と事業承継という代替手段も検討されます。
ただし、どの方法を選ぶにしても、税務上のリスクと家族間の信頼関係の双方に目を向ける必要があります。
「法務」「税務」「心理」の三層を意識した設計が不可欠です。
持分なし医療法人への移行は、単なる法的手続ではなく、「医療法人のあり方」を問うプロセスです。
全員の同意という厳しい条件は、裏を返せば「全員で未来を選ぶ」ための要請でもあります。
制度は変わっても、医療法人の根本にあるべきものは、やはり患者と地域への誠実な責任。
その理念を共有できる組織だけが、真に非営利の医療法人としての道を歩むことができるのだと思います。