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立退き料は”利益”ではなく”費用補填”――法務・実務で押さえるべき整理のポイント

「立退き料として〇百万円を支払う」と聞くと、 『そんなに貰えるなら得じゃない?』『利益になってしまうのでは?』 と思われる方も少なくありません。

しかし実際の現場では、立退きに伴って支出が次々と発生し、結果的に手元にはほとんど残らない──そんなこと、ありませんか?

新しい物件を借りれば敷金・礼金、内装工事や看板費用、引っ越し業者代、移転の告知や広告費。 営業を止める期間があれば売上も落ちます。

「立退き料」は決して”ボーナス”ではなく、これらの現実的な支出を補うための補償金であるべきです。

法的・税務的に安全な立退き料の組み立て方

立退きによって発生するのは、主に次のような実損や新規支出です。

  • 旧店舗の原状回復費用、廃棄費、運搬費
  • 新店舗の敷金・礼金・仲介手数料・保証会社利用料
  • 営業補償(休業期間の売上減少、利益喪失)
  • 開業準備費(内装・什器・広告・看板設置費)

これらはすべて「費用」や「逸失利益の補填」であり、慰謝料や利益供与とは異なる法的性質を持ちます。

契約書上では、次のように整理するのが安全です。

「本補償金は、乙が本件明渡しに伴い負担する移転費用、営業補償、新規契約費用等を補填する目的で支払うものであり、慰謝料その他の性質を有するものではない。」

この一文で、立退き料=費用補填という位置付けが明確になり、法的にも税務的にも不要な誤解を防ぐことができます。

補償金の明細を以下のように具体的に列挙しておくと、より安全です。

  • 移転費用(運搬費・廃棄費・原状回復費)
  • 新規賃貸借契約費用(敷金・礼金・保証料)
  • 営業補償(移転期間中の逸失利益)
  • 開業準備費(内装・什器・広告等)

こうして「何を補うのか」を明記すれば、税務上も実費補填として整理しやすくなります。

受け取る側は「費用補填」として処理し、支払う側は「損害補償金」として損金算入が可能です。

双方にとって実務上も安定的な整理となります。

法的安定性と税務リスク回避の両立

立退き料を「利益」ではなく「費用補填」として位置づけることは、法的安定性・税務リスク回避・交渉円滑化のすべてに資する考え方です。

金額の多寡を議論する前に、「何を補うための支払なのか」を具体的に示す。

それが、トラブルを防ぎ、互いに納得できる立退き交渉の第一歩です。