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離婚時の「財産分与放棄」―その書面、本当に有効?

離婚の場面では、感情的な対立の中で「財産分与はいらない」「放棄する」といった言葉が交わされることがあります。実際にその内容を紙に書き、署名・押印をしてもらった場合、はたしてそれは法的に有効なのでしょうか。

離婚前の「放棄」が認められない法的理由

結論から言えば、単なる「財産分与を放棄します」という書面は、原則として無効です。

財産分与請求権は、離婚が成立した時点で初めて具体的に発生する権利であり、離婚前にはまだ存在していません。そのため、離婚前に「将来の権利を放棄する」と書いても、法的効力は認められないのが一般的な裁判実務です。

また、離婚後であっても「財産分与を放棄する」という合意が、具体的な清算内容を伴わない場合には、後から「やはり請求したい」と主張される余地が残ります。

つまり、単なる放棄の一筆では、将来の紛争を防ぐ決定打にはなりません。

具体的な財産の分け方を示すことがカギ

もっとも、例外もあります。

たとえば、離婚協議書や調停調書、公正証書の中で、具体的な財産の分配(たとえば自宅を夫が取得し、妻は財産分与請求を行わない)といった清算内容が明記されている場合には、その合意が尊重される傾向があります。

このように、「放棄」という抽象的な言葉ではなく、“具体的な清算を前提とした合意”にすることがポイントです。

法的に意味のある合意にするために

離婚時の書面作成は、感情の整理だけでなく、将来の法的トラブルを防ぐための「最後の調整作業」と言えます。

勢いで「放棄」と書いてしまう前に、法的に意味のある形で整理しておくことが何より重要です。